古代中国の思想家で、儒教の産みの親である孔子。彼の言行録である『論語』は、成立から約2500年たった現在でも、大切に読み継がれています。今月は孔子の生涯について、またその思想についての基礎知識をご紹介します。
●「徳」で国を治める思想
孔子は紀元前551年、周王朝の魯という国で生まれたと言われています。父親を早くに亡くし、貧しい母子家庭で育てられました。独学で勉強をして、魯の下級役人となったものの、倉庫係や牧場の管理人といった仕事を与えられ、とても満足できるものではなかったのです。
30代になると、孔子は学者として名を上げるようになりました。魯の国で重用されるようになり、大司冠(だいしこう)という、現代風に言うと司法警察長官に出世。彼の希望は叶いつつあったのですが、政争に巻き込まれて55歳で魯の国を追われてしまいます。
その後はさまざまな国を転々としながら、孔子は「徳」によって国を治める政治を説き続けます。人の徳が十分に育てば、争いごとがなくなり平和に暮らせるという「徳治主義」を唱えたのです。しかし当時の中国は富国強兵の戦国時代で、下克上が盛んに行われているような社会でした。孔子の理想はなかなか受け入れられず、孔子は失意のまま魯の国に帰国しました。
その後は弟子の教育に邁進し、亡くなるまで思想を伝え続けました。
●現代に生きる孔子の言葉
『論語』は孔子が直接書いた書物ではなく、没後400年ほどの時間をかけて、何代もの弟子によって書き継がれたものです。その内容は孔子と弟子との間でかわされた言行録で、聖書のような物語形式をとっていません。したがって、どこからでも読み始めることのできる体裁の書物です。
全体は20編にまとめられ、約500の章があります。その中から、よく知られている言葉をピックアップしてみましょう。
「学びて時にこれを習う、亦た説(よろこ)ばしからずや」
自分が学んだことを時に復習して、できなかったことができるようになるのは、嬉しいことだ、という意味。現代の生涯学習にも通じる発想です。
「過ちて改めざる、是れを過ちと謂う」
過ちを犯しても改めないのを、本当の過ちという、という意味。人は誰でも失敗し、過ちを犯しますが、それを二度とくり返さないことが大事です。誤ったときにごまかして済ませ、それを後日くり返すようでは人の成長はありません。
「吾れ十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順(したが)う。七十にして心の欲する所に従いて、矩(のり)を踰(こ)えず」
孔子は晩年、人生を振り返り、この有名な言葉を言いました。「私は15歳で学問を志し、30歳で独立。40歳で迷いがなくなり、50歳で自分は何のために生きているのかという天命を知った。60歳になると他人の言うことを素直に聞くことができるようになり、70歳にして心おもむくままに行動しても人の道から外れなくなった」。この言葉から40歳を「不惑」、60歳を「耳順」、70歳を「従心」と呼ぶようになったのです。
以上、孔子と『論語』の基礎知識をご紹介しました。この夏休みは世界的な古典、『論語』を手に取ってみるのも楽しいかもしれませんね。