みかんのおいしい季節です。子どもの頃、こたつに入って、テレビを見ながら延々と温州ミカンなどを食べ続け、手のひらなどが少し黄色がかったように変色したことはありませんか? 今月はみかんの食べ過ぎと皮膚の変色について考えます。
●変色はカロテノイドのせい
みかんを食べ過ぎて、手のひら、足の裏などが黄色く変色する状態のことを「柑皮症」と言います。原因は植物に含まれる黄色、もしくはオレンジ色のもとになっているカロテノイド色素。みかんとともに、この色素を大量に取り入れることで血液の中に含まれる量も増え、その結果、皮膚に沈着。手のひら等が少し黄色くなるという症状となって現れます。
みかんに限らず、カロテノイド色素が含まれた食物を多食すれば起きることで、カボチャによる「柑皮症」も知られていて、1922(大正11)年、北海道の内科医がアメリカの医学雑誌に論文を掲載しています。ドイツではニンジンの過食による「柑皮症」が知られていて、こちらは「ニンジン黄疸」と呼ばれているそうです。
いずれにせよ原因はカロテノイド色素なので、最近では「柑皮症」にかわって「カロテン血症」と称されることも増えています。
●ベルツが名付けた「柑皮症」
手足の変色がミカンによるものという事実を発見し、「柑皮症」と名付けたのは、1876(明治9)年に来日したお雇い外国人、エルヴィン・ベルツ医師です。
ドイツ出身の彼は東京医学校(現在の東京大学医学部)で教鞭をとり、その後、26年間もの長い間、生理学、病理学、内科学、産婦人科学などを日本人に伝えてきました。彼は後に愛知県出身の女性、荒井花子と結婚し、一男一女をもうけています。
来日から20年になる1896(明治29)年、ベルツはドイツの医学週報に『蜜柑の過食による皮膚の特異なる着色について』という論文を発表。「柑皮症」を意味するラテン語「アウランティアージス・クーティス」という名前をつけています。彼はその他にも様々な「発見」をしていて、日本人の赤ん坊のお尻に青あざがあるのを見て「蒙古斑」と名付け、学会に発表しています。また草津温泉の薬効を世界に紹介。みずから草津に土地と温泉を購入し、温泉保養地を作ろうとしました。彼の功績を記念し、草津町は2000年にベルツ記念館を設立し、関連資料などを展示しています。
●ビタミンAの効能と危険性
前述のとおり、「柑皮症」の原因はカロテノイド色素ですが、このグループに属する色素は約80種類が知られています。ニンジン、マンゴー、みかんなど、黄色やオレンジ色をした果物・野菜類のほか、ほうれん草などの緑色野菜、スイカやトマトなどの赤い野菜などにも含まれています。
カロテノイド色素の代表格であるベータカロテンは人の体内の脂肪に蓄えられ、必要に応じてビタミンAに変化します。ビタミンAが不足すると角膜乾燥症や夜盲症などが起きるので、これを多く含むバター、卵、レバーなどの動物性食品を取ることも必要です。
しかし、一方でビタミンA過剰症もあります。誤って大量のビタミンA剤を飲むと、嘔吐やけいれんなどの急性中毒を引き起こします。あるいは通常の1日所要量の40倍くらいのビタミンAを数カ月も接種し続けると、食欲不振、皮膚乾燥、頭痛などの慢性中毒症状が現れます。
ただしみかんのように、天然のカロテノイドを手足が黄色くなるほど過食しても、ビタミンA過剰症の心配はありません。
以上、「柑皮症」の歴史やカロテノイド色素、ビタミンAについて説明しました。疲れ目や視力低下、肌荒れなどを防ぐ役割のあるビタミンAは十分に摂取したいものです。冬場のみかんをおいしく食べて、健康な体を守りましょう。